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2006年4月21日 (金)

ドラミちゃん

 今度こそダイエットで絶対痩せてやる! と心の中で同じフレーズをさんざん繰り返していた美香子は、帰りの通勤電車の吊り革につかまりながら、中吊り広告から挑発的に微笑む水着姿のアイドルタレントをチラチラ眺め、何よ、ちょっとぐらいスタイルがいいからってイイ気にならないでよね、そもそもこんな子に限って性格が悪いんだからと慰めにもならない慰めを自分自身にかけてみたが、そんなことぐらいで気分が晴れるはずもなく、それどころかアイドルタレントを見れば見るほど、たとえダイエットが成功しても到底このプロポーションに叶うはずもないと思い知らされ、ますます自己嫌悪を募らせた。車窓に写し出されている美香子の姿はお世辞にもちょっと太めどころではない。これでは総務部長でなくとも「マメタンク」と言いたくなるに違いない。それにしても、と美香子は思った。23歳の女の子が恥ずかしいのを我慢して制服のサイズ交換を申請しに行ったんだから、さっさと申請用紙をくれればいいものを、まだこちらが何も話さないうちから皆の前で「またマメタンクの制服交換か」なんて大声で言わなくてもいいじゃない、と。それでも美香子は悔しさを必死にこらえながら「どうせ呼ぶなら可愛くドラミちゃんって呼んでくださいよ」とその場を切りかわした。社会人も5年目を迎えて多少のことでは動じなくなっている美香子だが「マメタンク」の一言は当たっているだけに、さすがに傷ついた。
 駅のホームを後にした美香子は寄り道をしない決心を強くして、駅前通りから続く小さな○×銀座商店街の看板をくぐった。馴染みの惣菜屋から次々に声をかけられても何も買う気力すらなく、どんよりした面持ちでアパートへ向かっていたが、肉屋の前まで来たところで「揚げたてだよ」の威勢のいい声に何んの気なしに振り向いた。見ると肉屋のガラス越しに、たった今、油鍋から取り出されたばかりの唐揚げが網の上で油を弾かせている。美香子は思わず、噛みしめた唐揚げの肉汁が口の中いっぱいに広がる様子を想像した。すると今まで忘れていた空腹感がパッと目覚め、やっぱりダイエットは明日からにしよう、という思いに後押しされて店先へ入っていった。美香子は今、唐揚げの入った袋を手にオマケしてもらった好物のハムカツが冷めないようにと足早にアパートへ向かっている。先程まで心に焼きついていた総務部長の一言もすっかり忘れて。

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