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2006年4月30日 (日)

いもうと

 ちょうどTVドラマがいい場面なのにドアチャイムが鳴った。それもきっちり3回。妹の栞(しおり)だ。ヤレヤレと玄関へ。ドアを開けると栞はパンプスを脱ぎ散らかし「お腹空いたぁー」と部屋へ上がりこんできた。キッチンへ入った栞が「おおっ、今日は肉じゃがか」と鍋のふたを開けて覗きこみ、ガスのスイッチをつけた。
「ちょっと栞、ここはアンタの家じゃないのよ。なんか勘違いしてない?」
「まあまあ、そう堅いこと言わないでさぁ。いいじゃん、肉じゃが一杯ぐらい」
「それで今日は何んの用? お金だったら貸さないからね。この間の2万だってまだ返してもらってないんだから」
「なんだ、まだ覚えていたの? あっ、ごめん。今のはウソウソ。実はさ、言いにくいんだけど・・・ちょっとお願いがあるんだ」
 やっぱり。栞がアタシを上目づかいに見て意味ありげにへへっと笑った。嫌な予感。栞がこんなふうに笑った後に良いことがあった試しがない。
「あのね、ほらアレ来ないし。ちょっと心配で妊娠診断薬買ってきたんだ。でね、一人で結果を見るのが怖いから、おねえちゃんも一緒に見てくれないかなって・・・」
「はぁ? あのねぇ、アンタそういうことまでアタシに付き合わせる訳? ホラー映画見るのとは訳が違うでしょうが。そんなの一人で見なさいよ」
「おねえちゃーん、そんな冷たいこと言わないでよ。いいじゃん、姉妹なんだからさぁ」
「いいじゃん、いいじゃんって全然良かないって。アンタ28でしょ。いつまでも甘えてんじゃないよ。ダメダメ、そんな泣き顔したって」
「お願い、おねえちゃん。今回だけだから。これが本当の本当に最後。ねっ?」
 本当に最後かねぇ。はあっ。大きくため息をついて仕方なく頷(うなず)く。栞は泣きそうな顔から一転して晴れやかな顔に変わり「サンキュ」と一言残してトイレへ駆けて行った。また泣き落としにはめられてしまったか。まったく、と苦笑いしているアタシの横で鍋の肉じゃががコトコト煮えかけていた。

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