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2006年10月13日 (金)

獲物

 蒸し暑い夏の夜。その男は以前から変質者が出没すると噂のある場所へ向かっていた。私鉄沿線の駅前通りを進むと道は二つに枝分かれしていたが男は迷わず右手へ折れた。道の両側には一戸建ての住宅が連なるように続いている。男は電柱にかけられた看板の「目撃情報を捜しています!」を読み、フッと鼻で笑った。目当ての建設中の大型マンションはすぐそこにあった。男は周囲に人気のないことを確認すると、マンションの工事現場入り口になっているプレハブの扉の前へ進んだ。扉にかけられているのは安物の小さな錠のみだ。男は持ってきたスパナで錠が留められている金具をねじ切ると金具は簡単に壊れた。マンションの中はコンクリートが打ちつけられたばかりでセメントの匂いが充満していた。鼻につく匂いだが我慢できないほどでもない。マンションの内部をざっと物色した男は入り口へ戻ると扉を少しだけ開き、外の様子を窺(うかが)った。そろそろ最終電車から降りた乗客が通る頃だ。男はスパナを握りしめ、衝動が昂(たか)ぶってくるのを感じながらもじっと身を潜(ひそ)めた。しばらくして、どこからか犬のけたたましい鳴き声が聞こえてきたかと思うと、遠くの方からコツ、コツと足音が響いてきた。あの音はハイヒールを履いた女だな。男はにじんでくる額の汗を腕で拭(ぬぐ)うと、足音が近づいてくるのを息を殺して待った。コツ、コツ・・・ハイヒールの足音が男の方へ近づいてくる。男はタイミングを見計(みはか)らった。5、4、3、2、1---「今だ!」男は扉から勢いよく飛び出すと、目の前で立ちすくむ女の腕を矢継ぎ早につかみ、力一杯に身体を引き寄せてマンションの中へ連れ込むと、女の身体をコンクリートの床へ押し倒した。「騒ぐと殺すぞ」男はスパナを振りかざした。すると女は突然、嘲笑(あざわら)うかのような甲高い笑い声を発した。「何がおかしいんだ」男は暗がりの中、眼を凝(こ)らして女の顔を見つめた。そこにいるのは平凡な顔つきの若い女だ。だが一部分が違っていた。真紅の口紅に塗られた唇が耳の付け根まで裂けている。「うっ」男は慌てて逃げ出そうとしたが、どうしたことか身体が硬直してまるっきり動けない。口の裂けた女の顔は男の方へどんどん迫ってくる。男は戦慄のあまり顔を歪め、鳥肌の立った身体を震わせた。女は紅く裂けた唇を舌でペロリと舐め回すと輝きに満ちた瞳で男を見つめた。「助けてくれぇー」男の叫び声がマンションに空しく響きわたった・・・。

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コメント

読んでますよ、というのをアピールするためにちょっとツッコミを入れさせてください(笑)
「スパナ」で金具をねじ切るのは大変骨の折れる作業だと思うので、アイテムとしてスパナを使うとすれば別の使用方法を選択、例えば窓ガラスを割る、とかにした方がよいかと思います。
最近マメに更新されてますね。仕事もそろそろ落ち着いてきたというところでしょうか。

投稿: BROS | 2006年10月13日 (金) 23時34分

>BROSさん、ご指摘ありがとうございます。

そうですか、スパナは金具をねじ切る道具じゃなかったんですか、お恥ずかしい。まったくもって知りませんでした(^ー^;A
次回からは道具も調べた上で書きます!

仕事ですが、お陰さまで落ち着いています。また来月からはしんどくなりそうですが、以前のような過酷な残業にはならないと思います(*^-^*)

投稿: もときち | 2006年10月14日 (土) 01時48分

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