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2007年11月 9日 (金)

恋心

 エミはベッドで寝返りを打つと、閉じていた眼を開けて時計を見た。午前2時35分。ベッドへ入ってから1時間以上経っている。あの時「エミ・・・離したくない」と言った爽太の声。思い出さないようにすればするほど鮮明に蘇ってくる。婚約者の爽次から兄の爽太を紹介された時、画家を目指していると熱く語る爽太にいつしか共鳴していた。エミは両親の反対で美大ではなく、ミッション系の大学へと進んだいきさつがあった。だから爽太が二科展へ出品するため、ぜひ絵のモデルになって欲しいと言われた時は喜んで承諾した。
 春色の公園、ベンチに座わり本を読むエミ。その姿をキャンバスへ描く爽太。二人だけの静かな時間が流れて行く。本をめくるエミの指先にも、スカートの裾にはらむ風にも、爽太の視線が一部の隙もなく注がれている。エミは爽太に見つめられているだけで安堵が満ちてくるのを感じた。爽太と話をするのは、送ってもらう駅までの道すがらだけだったが、いつも決まって話すのはエミで、爽太はエミの話に最後まで耳を傾け相槌を打つ。話し始めるとすぐに結論を出し、結局は話を聞いてくれない爽次とは大違いだ。爽太といる間中、エミは心地良さを感じていた。それが先週のあの日、駅の近くまできたところでエミはいきなり爽太に抱きしめられた。「好きだ」エミの耳元に爽太の声が響く。背中に回された爽太の腕の温もりがエミの体の芯に伝わってくる。「エミ・・・離したくない」力を込めて抱きしめる爽太の胸にエミは顔を埋めた。そしてどちらからともなくラブホテルへと向かった。
 エミはその翌日から公園へ行くのはやめた。爽太とはそれっきり会っていない。爽太に会いたい。会って爽太の胸に飛び込みたい。爽太への想いだけが胸の中で空回りする。明日の結婚式は、オーダーメイドで作ったシルクサテンのウエディングドレス、エミの好きなチューリップをあしらったブーケ、小粒のピンクダイアモンドが埋め込まれた結婚指輪、そしてタキシードに身を包む爽次と誓いのキスをするだろう。それでもいい、爽太と会えるのだったら。「だって好きなんだもん」エミの声が夜の闇に溶けて行った。

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コメント

漢字の間違いが1つありますよ~。
どれかは伏せておきますが、このページにあるので調べてみて下さい。
http://www.h3.dion.ne.jp/~urutora/machigaepeji.htm

投稿: BROS | 2007年11月23日 (金) 10時49分

>BROSさん、ご指摘ありがとうございます。

文中の「辞める」→「止める」の間違いをご指摘頂いたと思うのですが。辞書を引かないで書いていまして恥ずかしい限りです。

投稿: もときち | 2007年11月26日 (月) 00時21分

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